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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1014号 判決 1977年11月30日

控訴人 三越興業株式会社

右代表者代表取締役 数金一麿

右訴訟代理人弁護士 義江駿

同 山川恵正

被控訴人 コーポラスサービス株式会社

右代表者代表取締役 古田順

右訴訟代理人弁護士 藤井正博

主文

一、原判決中控訴人敗訴の部分を左のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金一七二万円およびこれに対する昭和四八年一二月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三、この判決は、被控訴人勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決二枚目裏五行目に「鉄筋コンクリート」とあるのを「鉄筋コンクリート造アパート」と改め、同六枚目表七行目および同裏五行目にそれぞれ「(第一・二回)」とあるのを、いずれも削除する。)

(被控訴人の陳述)

控訴人の後記主張はこれを争う。被控訴会社の佐野課長は、管理部門の課長として何十ヶ所も見廻りをしなくてはならない立場上、控訴会社の本件塗装工事について、全部のケレン作業等を指示、監督し得るものではなく、現にそのような指示、監督はしていない。まして同人はケレン作業に詳しくはない。被控訴会社が、本件剥離個所の修補工事を訴外プラチナ塗装工業株式会社に請負わせて塗装させたところ、再び剥離が生じた事実があることは認めるが、この場合においては、塗装工事の完了後二年を経過して部分的な剥離を生じたにすぎないのに対し、控訴会社の本件塗装工事にあっては、工事完了後六ヶ月足らずで全面的な剥離を生じたものであって、右両工事の間には比較にならない差異が認められるのである。

(控訴人の陳述)

本件塗装工事の一工程であるケレン作業について、注文主被控訴会社の営業課長佐野真二は、こまかく関与・指示および査察・検査を行ない、控訴会社は、塗装に詳しい佐野課長の指示と査察に従って作業し工事を完了したものであって、佐野課長の右指示および検査が一〇〇パーセント行なわれたという実情に徴しても、控訴会社にケレン作業の不足などあり得ないことは明らかである。すなわち本件剥離は、本件コーポラスの老朽化等建物自体に内在する原因によるものであって、控訴会社の塗装工事の瑕疵によるものではない。このことは、右剥離部分について、被控訴会社が、その主張のように訴外プラチナ塗装工業株式会社に施工させた再塗装でさえも、その請負金額は控訴会社の場合よりも割高であり、且つ、工事施行に対する被控訴会社の査察・検査は控訴会社に対するよりも厳重であった筈であるのに、またも短期間のうちに元と同様な剥離状態を生ずるに至ったという事実に照らしても明らかなところである。

(証拠関係)《省略》

理由

一、被控訴人が鉄筋コンクリート造アパートの管理を業とする会社であり、控訴人が店舗設計施行、住宅内外装等を業とする会社であること、被控訴会社と控訴会社との間に、昭和四六年七月二一日、被控訴会社を注文主として、その管理する代官山コーポラスについて外部塗装工事の請負契約を締結し、その工事内容として、(イ)ケレン作業を完全に行なうこと、(ロ)下塗りにシーラー材を使用すること等を約定したこと、控訴会社が同年八月末日右塗装工事(本件塗装工事)を完成し、被控訴会社に引渡したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二、《証拠省略》を総合すれば、本件塗装工事のような外装工事は、良くて一五年、悪くても二、三年はもつと一般に言われていること、しかるに本件においては、工事完成後三ヶ月位から徐々に剥離が目立つようになり、完成後六ヶ月位経った折には、右の一般常識からは考えられないほどのひどい剥離の状態が全体的に生ずるに至ったこと、そこで、その頃から被控訴会社は、度々控訴会社に対し修補を請求したが、控訴会社はこれに応じなかったこと、新規でない塗り直しの外装工事は、ケレン作業、シーラー材処理、下塗、上塗の四段階を経て行なわれるが、ケレン作業は従前の塗物を研練除去し素地を調整するもので、この作業が不十分であると、旧塗装剤の上に新規塗料を重ねることになる結果、新規塗装全体の耐久力を弱め剥離を招くことになるのであり、通常、剥離を来たす原因の最大のものは、このケレン作業の不足であること、控訴会社が被控訴会社から請負った本件工事の代金額は二五五万円で、工事の規模に相当する額であり、格安ではなかったが、これを控訴会社が約一三〇万円という廉価で訴外石田明広に下請させ、しかも同人の施工を十分に監督指導するでもなかったところから、石田において甚だ不十分なケレン作業に終始し(ケレン作業以外の前示シーラー材処理等の点については、格別の落度は認められない。)、そのため、このケレン作業不足が原因で、前示のようなひどい剥離状態(本件剥離)を生ずるに至ったこと、以上の事実が認められる。なるほど控訴人の主張するように、被控訴会社の営業課長佐野真二が右ケレン作業について指示を与え検査を行なった事実のあることは後記認定のとおりであるが、そのような事実から直ちに控訴会社の右ケレン作業不足があり得ないものと認めることはできないし、また、被控訴会社が後記認定のように訴外プラチナ塗装工業株式会社に再塗装をさせたところ、その工事の完了後二年位を経過して再び剥離個所を生じたことは被控訴人の自認するところであるが、右の剥離は、発現に至る期間も比較的長く、剥離の規模、態様の点においても前示の本件剥離とは比較にならないほど軽微なものにすぎないこと乙第七号証(これが本件建物を撮影した写真であることは当事者間に争いがなく、その撮影年月日が控訴人主張のとおりであることは弁論の全趣旨によりこれを認める。)に徴し明らかであるから、控訴人主張の如く、両者が同程度の剥離であることを前提に、両者が共に本件建物(コーポラス)の老朽化等建物自体に内在する原因によるもので塗装工事の瑕疵によるものではない旨結論づけるのは早計に失するのであって、《証拠省略》中右認定の趣旨に反する部分は措信しがたく、他にも右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、本件塗装工事には瑕疵があるというべく、控訴会社は被控訴会社に対し、担保責任として、瑕疵修補に代わる損害賠償の義務があるものというべきである。

三、そこで、被控訴人主張の損害額について判断するに、《証拠省略》によれば、被控訴会社は、前示のように控訴会社が修補の請求に応じなかったので、建物保存上やむをえず、訴外プラチナ塗装工業株式会社に本件剥離部分の修補を依頼し、工事の完成引渡を得て、昭和四八年一一月一〇日同会社にその修補代金二一五万円を支払ったことが認められるので、被控訴会社は、本件工事の瑕疵によって右金二一五万円の出捐を余儀なくされ、同額の損害を被ったものというべきである。

ところで、《証拠省略》によれば、本件塗装工事のケレン作業には一週間位の日時を要したが、この間に塗装関係にも詳しい被控訴会社営業課長佐野真二および同課員永田恒雄が、控訴会社の専務取締役数金友之と共に、三回位右作業の現場に立会ってその際目についた作業不十分の個所を指摘するなど指示・検査をしたけれども、それも結果的には十分なものでなかったことが認められるので、民法第六三六条の法意にかんがみ、過失相殺の規定を準用することとして、右金二一五万円からその二割を減じた金一七二万円をもって控訴会社が被控訴会社に賠償をなすべき損害額と認めるのが相当である。

四、そうすると、被控訴人の本訴請求は、右金一七二万円およびこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四八年一二月五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。

右と一部結論を異にする原判決は一部不当であって、本件控訴は一部理由があるがその余は失当であるから原判決を右の趣旨に従って変更し、第一・二審の訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 滝田薫 桜井敏雄)

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